鳥取地方裁判所 昭和25年(行)18号 判決
原告 中島政実
被告 鳥取県農地委員会
一、主 文
被告が昭和二十三年七月十日附を以て原告の訴願を却下した裁決及び訴外鳥取縣八頭郡若櫻町農地委員会が同年一月初旬樹立した鳥取縣八頭郡若櫻町字廣原千百七十五番の一、田一反七歩の内四畝二十八歩の買收計画はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は全部被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は鳥取縣八頭郡若櫻町字廣原千百七十五番の一、田一反七歩の内四畝二十八歩を所有しているところ、同郡若櫻町農地委員会は該農地を小作地と冒認し、昭和二十三年一月初旬自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)の規定により買收計画を樹立したので原告はこれに対して異議申立を爲したところ、同月九日この異議申立を却下したので原告は更に被告に対して訴願を爲し、被告は同年六月十日該訴願を却下する裁決を爲し同年七月二日原告に対しその旨の通知をした。しかし右農地は原告が昭和五年頃その所有権を取得しその後訴外山本重好に賃貸していたが、同人は昭和二十一年五月中原告に無断でこれを訴外成川福男、盛田房太郎、盛田幸市に轉貸したので原告は同年七月二十六日附の書面を以て民法第六百十二條の規定に從い賃貸借解除の意思表示を爲し、この書面は同月二十八日山本重好に到達したので前記の賃貸借は同日適法に解除せられた。そこで原告は直ちに右農地の耕作に着手したところ、その翌日頃右成川福男等三名は暴力を以て原告から該農地の占有を奪い、爾來同人等において耕作を続けているが、このような場合は原告は一時暴力によつて土地の耕作を阻害されているに過ぎないから原告の自作地であることは明かであるに拘らず、若櫻町農地委員会はこの事情を看過し、これを小作地と誤認し前記のように買收計画を樹立したのは違法であり、從つて又被告がこの買收計画を適法と認めて原告の訴願を却下した裁決も違法であるから各その処分の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)
被告指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告が本件農地を所有しこれを訴外山本重好に賃貸していたこと及びこの農地に対して原告主張の頃その主張のような買收計画、異議申立、異議却下の決定、訴願申立、訴願却下の裁決及びその通知のあつたことはいづれも爭はないが、その余の原告主張事実は否認する。本件農地は小作地であるから自創法第六條の規定により買收計画を樹立したものであつて何等違法の点はない。仮りに原告主張のように訴外山本重好との賃貸借が適法に解除せられたものとしても、昭和二十年十一月二十三日当時においては本件農地が小作地であつたことは明かであるから、訴外若櫻町農地委員会が買收計画を樹立した昭和二十三年一月初旬とは権限に基いて耕作の業務を営む者が異なるを以て、昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基き自創法第六條の五の規定によつて遡及買收計画を樹立することができるものであるから、結局において若櫻町農地委員会の樹立した買收計画は適法であり、從つて被告の訴願却下の裁決も亦適法であると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が鳥取縣八頭郡若櫻町字廣原千百七十五番の一、田一反七歩の内四畝二十八歩を所有すること及びこの農地に対して昭和二十三年一月初旬同郡若櫻町農地委員会が小作地として自創法第六條の規定により買收計画を樹立し、これに対し原告が異議申立をしたが同委員会がこれを却下したので更に原告から被告に対して訴願をなし、被告がこの訴願に対して昭和二十三年六月十日却下の裁決を爲し同年七月二日原告に対し、その旨通知したことは当事者間に爭のないところである。而して原告は該農地は元訴外山本重好に賃貸していたが、同人が原告に無断で他人に賃貸したので原告は昭和二十一年七月二十八日該賃貸借の解除をしたので右買收計画樹立当時は小作地でなかつたから、これに対して自創法第六條の規定によつて買收計画を樹立することはできない旨主張するので按ずるに、原告が本件農地を訴外山本重好に賃貸していたことは当事者間に爭のないところであるが、成立に爭のない甲第一号証の記戴と原告本人の供述によれば山本重好は昭和二十一年春頃同人が賃借していた本件農地を原告の承諾なくして訴外成川福男、盛田房太郎、盛田幸市に轉貸したので原告は同年七月二十八日頃民法第六百十二條第二項の規定により右賃貸借契約を適法に解除したことが認められる。從つて訴外若櫻町農地委員会がその後昭和二十三年一月初旬本件農地を小作地と認定して自創法第六條の規定によつて樹立した買收計画は違法であり、從つて亦この買收計画を適法と認めて原告の訴願を却下した被告の裁決も不当と謂わねばならない。被告は仮りに原告が本件農地について爲した賃貸借の解除が適法であるとしても昭和二十年十一月二十三日当時においては小作地であつたことは明かであり、且本件買收計画樹立当時とは権限に基く耕作の業務を営む者が異なる場合に相当するので自創法第六條の五の規定によつても遡及買收を爲すことができるから、本件農地に対する買收計画は適法であると主張するけれども、元來買收計画当時を標準として買收計画を樹立するものと、昭和二十年十一月二十三日当時を標準として買收計画を樹立するものとはそれぞれその要件、手続を異にするものであるから成立に爭のない乙第三号証の記載並に弁論の全趣旨に照して前者であることの明かな本件買收計画を昭和二十年十一月二十三日当時を標準としても適法に買收し得たことを理由として遡及買收としての効力を認めることは許されないものと解さねばならない。從つて被告のこの点についての抗弁は採用することができない。
よつて訴外鳥取縣八頭郡若櫻町農地委員会が昭和二十三年一月初旬本件農地について樹立した買收計画及びこれを支持して被告が同年六月十日附を以て原告の訴願を却下した裁決はいづれもこれを取消すこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條第九十六條後段を適用し主文の通り判決した。
(裁判官 大賀遼作 谷口武 石見勝四)
(目録省略)